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問)私はモロッコ男性と結婚した日本人女性です。結婚後二人は日本を生活の拠点にして夫婦の関係を続けてきました。しかしちょっとした感情の行き違いで夫が「おまえとは離婚する」とのメモだけを残し、突然家出をしました。以来、夫は行方不明です。こうなっては仕方ないかと決意し離婚の手続きをとろうとしましたが、夫が行方不明では離婚の手続きを進められません。そこで夫が日本国内にいるのかそれとも国外に出て行ったかを確認するために妻の身分で法務省に夫の出入国履歴の開示請求をしたいと思いますが可能でしょうか。

答)妻の身分を根拠にして夫の出入国履歴の開示請求を求めることはできません。
もし出入国履歴を開示したいのであれば、

・弁護士に委任し、弁護士による開示請求を求める
・警察に事件性があると説明し捜査の一環として警察による開示請求を求める
・その他役場に相談して役場から法務省に照会をかけてもらう
・離婚調停や離婚訴訟を提起して裁判所から職権で開示命令をだしてもらう

といった方法があります。

個人の出入国履歴は、個人情報に含まれますが、そもそも行政機関が保持する個人個人情報を開示請求する権利は、行政機関個人情報保護法第12条(開示請求権)によって規定されています。条文を見てみましょう。

第12条(開示請求権)
第1項
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する自己を本人とする保有個人情報の開示を請求することができる。

第2項
未成年者又は成人被後見人の法定代理人は、本人に代わって前項の規定による開示の請求(以下「開示請求」という。)をすることができる。

としています。

(1)「何人も」(第1項)
開示請求できるのは「何人も」としていますので、国籍を問いませんし、日本に在住していることも必要ありません。例えば外国に住む外国人が外国に居住しているからといって請求が認められないわけではありません。また年齢による制限もありませんが、個人情報開示請求は行政に対する法律行為ですので、請求権者が請求の内容および効果を弁識できる能力を備えていることは必要となります。

(2)「自己を本人とする保有個人情報」(第1項)
問題はこの文言です。開示できるのは、あくまで「自己を本人とする保有個人情報」に限られていますので、御質問にあるように、単に配偶者であるのみで配偶者の個人情報の開示請求をすることはできない。また、死者の情報が、同時に死者の遺族の個人情報となる場合がありますが、この場合には、当該遺族が自己の個人情報に対する開示請求を行うことができることなります。例えば婚外子が認知の訴えを提起した場合、父とされる死亡した男性が長期間海外にいて日本に居住する母親と性交渉の機会があったかどうかが争点になった場合、原告たる子は亡き男性の日本への出入国履歴を個人情報として自己の個人情報に対する開示請求を行うことができます。

そうすると、妻の資格で夫の所在を把握するうえで重要な手掛かりになる出入国履歴を開示請求できないことになります(「自己を本人とする」の条件を満たさないため)。

しかし、このような不都合によって身分行為である離婚手続きが進まないとするのでは不合理です。

そこで、弁護士に依頼し、当事者照会制度を利用して、弁護士が法務省に依頼をかけることになります。

また、仮に出入国履歴の開示が犯罪の立件に結びつくケースであれば、事件を受理した警察から法務省に開示請求(照会)する方法もあります。ただし、犯罪が親族間で犯された窃盗罪や詐欺罪などであれば、親族相盗例に該当し、そもそも立件しませんので、このような場合ですと、警察が動くことはないと思います。

さらに、市区町村などの行政機関に依頼して請求が認められない人に代わって照会してもらう方法もあります。これは個別案件の内容をみて、請求する必要性と許容性を判断することになるかと思います。

さらに、いったん離婚調停を申し立てたり公示送達制度を利用した離婚裁判を提起して裁判所から開示命令を出してもらうという方法もあります。

ですので、ご自身の配偶者としての地位によっては開示請求が認めららないからといってあきらめる必要はありません。弁護士に相談するなどして方策を検討する余地はあります。