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相続・限定承認と死因贈与

1.事例


父が、生前世話になった息子に対して、自己が死亡した場合には、自己が所有する土地と建物を贈与する旨を約束し、そのとおりの所有権移転登記も済ませました。その後、父が死亡し、息子は父の相続財産が債務超過であったため限定承認しましたが、父の債権者は、贈与をうけた不動産に対して強制執行を行おうとしています。この場合、息子は自己の所有を主張して強制執行に対抗できるでしょうか。

この場合、不動産の死因贈与の受贈者が贈与者の相続人であることから、その者が限定承認したときは相続債権者に対して不動産の所有権を対抗はできないのです。


2.限定承認と相続債務


限定承認をした相続人は、被相続人の債務全体をいったんは承継します。そして債務の引き当てとして相続財産を限度として有限責任を負うのです。
従いまして、債権者は相続人に対して債務の全額を請求することも可能ですし、相続人が相続債務を支払っても有効な支払いとなります。
仮に裁判で相続債権者が限定承認者に対して債務全額を請求した場合には、相続財産の限度において弁済すべき旨の留保を付して全額について支払うことを命ずる判決がでることになります。


3.限定承認と不動産の譲渡


不動産を取得した者が限定承認をした相続人本人であり、まったくの第三者が取得した場合ではないとき、相続人が限定承認した場合の相続債権者と受遺者との関係は、どうなるのでしょうか。
この点、民法931条の解釈の問題となります。

判例は、このような事案について、被相続人の財産は本来は限定承認者によって相続債権者に対する弁済に充てられるものであることから、死因贈与に基く限定承認者への所有権移転登記が相続債権者による差押登記に先んじてなされた場合であっても、信義則に照らし、限定承認者は相続債権者に対して不動産の所有権取得を対抗できないとしています。
すなわち信義則上相当でないことを理由に、限定承認者は相続債権者に不動産の取得を対抗できないのです。